岡山県真庭市は循環型社会の実現に向けて、家庭や事業所から出る生ごみやし尿から、液体肥料を作る取り組みを進めています。
この「バイオ液肥」事業は、木から発電する「バイオマス発電」と並んで、真庭市のSDGsの取り組みの1つです。
この記事では、バイオ液肥について、以下の内容を紹介します。
- バイオ液肥事業が始まった理由
- 真庭市内での循環の様子
- バイオ液肥に関する注意点
僕は兼業農家で、大学時代は環境学と農学を学んでいました。
だからバイオ液肥を知ったとき、「真庭市ってすごい取り組みしているんだな」と思いました。
循環型社会やSDGsに関心のある方にとって興味深い内容なので、ぜひご一読ください。
このブログを書いている人
- 岡山県真庭市の移住コンシェルジュ
- 大学時代は農学と環境学を専攻
- 岡山市で稲作、真庭市では小さな畑で野菜を育てている(液肥も使っている)
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目次
バイオ液肥とは
バイオ液肥とは、家庭や事業所から出る生ごみやし尿、浄化槽汚泥を原料とした”液体状の肥料”のことです。
「コンポスト」のようなものだと思うとイメージしやすいでしょう。
生ごみやし尿、浄化槽汚泥は、ふつうはお金をかけて処理されます。
しかし、真庭市ではこれらのごみを、”資源”として活用しています。
作られたバイオ液肥は、市内各所で無料配布。
農家や家庭菜園をしている人の多くが利用しています。
バイオ液肥事業の目的=ごみ削減
バイオ液肥事業は「ごみ削減」を目的に、真庭市が始めた事業です。
なぜ、バイオ液肥事業に取り組もうと考えたのでしょうか?
ごみ処理の際には、以下の費用と場所が必要です。
- 収集費用:ごみを集める
- 焼却費用:ごみを燃やす
- 最終処分場:焼却灰を埋める
真庭市では、年間約14,000tのごみを、約7億円かけて処理していました。
また、し尿と浄化槽汚泥合わせて33,900klは、約2億円かけて処理していました。
しかし、ごみ処理を取り巻く環境は以下のように厳しい状況に置かれていました。
- 人口減少:20年後には現在の6割に
- 施設:焼却上の老朽化
- 最終処分場:残りの容量が少ない
- 財政:硬直化
人口が減って税収は減り、ごみを処分する場所もなくなる。
それどころか、ごみを市外の処分場まで持って行くための費用が必要になってくる。
なかなか暗い未来ですね・・・。
一方で、1年間のごみの量と内訳は以下の通りでした。
燃えるごみの量が多いですね。
では、燃えるごみの内訳(重量基準)はどうなっていたかというと・・・。
燃えるごみの総量は約11,900tでした。
しかし、生ごみや紙など、きちんと分別すれば1,900tまで減らせることが判明しました!
さらに、ごみ処理にかかる費用も削減できることが判明。
そして、真庭市はごみ処理において、以下のような方針をとることに決めました。
- 生ごみ、浄化槽汚泥の液肥化
- 紙ごみの資源化
- 焼却施設の規模縮小・集約化
(平成25年度 真庭市廃棄物減量等推進審議会)
こうして、ごみの量を減らすために「生ごみ等資源化事業(バイオ液肥事業)」が始まりました。
バイオ液肥の循環の仕組みと使い方
バイオ液肥がどのような循環を生んでいるのか、図で表すと上のようになります。
詳しく解説します。
①生ごみを分別して青いバケツに捨てる
真庭市内のゴミステーションには、写真のような青いバケツが置かれています。
家庭や事業所から出る生ごみは、この青いバケツに捨てます。
分別するのはもちろん市民です。
最初は「本当にみんな分ているのかな?」と疑心暗鬼でしたが、住んでみるとビックリ!
みんなきちんと分別していました。
詳しい捨て方は上の画像のような感じです。
家庭で生ごみ保管用のバケツを用意しておくと便利。
水を切った後に生ごみを入れておいて、溜まったらゴミステーションに持っていきましょう。
②専用プラントでメタン発酵して液肥を作る
青いバケツはごみ収集業者によって回収され、写真のような専用プラントに運ばれます。
このプラントの中で、メタン発酵によってバイオ液肥が作られます。
③オレンジ色のタンクがある場所に汲みに行く
作られたバイオ液肥は市内各所に運ばれ、写真にあるオレンジ色のタンクに入れられます。
蛇口をひねるとバイオ液肥が出てきます。
容器を持って行って、たっぷり入れましょう。
④農地に撒く
持ち帰ったバイオ液肥は、写真のように農地に撒きます。
そして、できたお米や野菜を食べて、生ごみが出たら分別して青いバケツに捨てる。
以上が、バイオ液肥の循環の仕組みです。
とてもシンプルな仕組みですが、市として取り組んでいる点がすごいと思いました。
バイオ液肥のメリット
これまでで「環境に良さそう」という印象を持ったと思います。
でも、市民にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
ここからは、僕が思う「バイオ液肥を使うメリット」を2つ紹介します。
普段のごみ出しが楽になる
生ごみを分別することで、普段のごみ出しが楽になります。
「楽になる」を具体的に表現すると、以下の3点です。
- 運搬:水分量の多い生ごみを分別することで、燃えるごみの重量が軽くなる
- 精神的負担:生ごみから滴れるドリップを気にしなくてよい
- 経済性:生ごみが減った分他の燃えるごみを袋に詰められるので、ごみ袋費用が少し浮く
メインは運搬が楽になることです。
生ごみの水分がなくなるだけで、同じ容量でも結構重さが違います。
精神的な負担減と経済性が少し良いのはオマケと思ってください。
肥料代が無料
家庭菜園をしていると、肥料代無料がとても嬉しいです。
ナスやピーマンなどの野菜は、成長過程で追肥が必要です。
家庭菜園レベルだとそこまで肥料代はかかりませんが、それでも無料で使えるのは嬉しいです。
規模が大きくなるとなおさらでしょう。
生ごみ分別・バイオ液肥の注意点
ここまでバイオ液肥の良い点ばかり紹介してきましたが、注意点もあります。
生ごみ分別の注意点①|卵や貝殻は捨てちゃダメ!
生ごみでも、卵や貝殻は青いバケツに捨ててはいけません。
理由は殻に含まれるカルシウムが、プラントの配管を詰まらせてしまうからです。
そのため、卵や貝殻は燃えるごみとして捨てましょう。
僕も最初は間違えて、生ごみと一緒に捨ててしまいました。
後日ゴミステーションに張り紙が出ていて、それで気づけましたが。。。
間違えやすいので、注意してくださいね。
生ごみ分別の注意点②|回収がない地区もある
生ごみの回収は、市内全域で行なっているわけではありません。
2022年5月現在では、真庭市久世地域だけで実施しています。
理由は以下の2点です。
- プラントの処理能力が、市内全域の量に対応できていないから
- まず久世地域で試験的に開始し、その後市内全域に広げたかったから
今後は全域に広げる予定ですが、生ごみの回収を行なっているのは久世地域のみです。
そのため、久世以外に住んでいる人は、生ごみは燃えるごみとして捨てています。
なお、生ごみの回収は久世地域のみですが。バイオ液肥は市内全域で利用できます。
液肥の注意点|臭いので取り扱いは慎重に
バイオ液肥は臭いです。
原料を見て気づいた方も多いと思います。
そのため、服に付いたり、農地以外の場所にこぼしてしまうと大惨事。
容器の蓋をしっかり閉めるなど、取り扱いは慎重にしてください。
バイオ液肥に関するその他の情報
今後は市内全域に拡大予定
前述したように、バイオ液肥事業は、現在は久世地域のみで実施しています。
今後は、市内全域に拡大予定。
新しいプラントの建設などの動きが始まっているので、今後の情報を待ちましょう。
取組みを見学できるツアーもある
真庭観光局が主催している「バイオマスツアー」では、今回紹介したバイオ液肥の循環の仕組みを見学できます。
ツアーの内容は以下の通りです。
- バイオ液肥事業の概要説明
- 専用プラントの見学
- バイオ液肥を使っている農場の見学
- 収穫体験(季節による)
- 直売所の見学
オプションを付けると、あぐりガーデンでの食事も楽しめます。
僕も参加したのですが、普段入れないプラント施設を見学できたのが印象に残りました。
プラントの中を覗けたのは貴重な経験でした。
【リンク】真庭SDGs・バイオマスツアー バイオマス循環農業コース
まとめ:バイオ液肥はごみ削減につながる循環の仕組み
真庭市のバイオ液肥について紹介しました。
ごみ削減を目標に始まったバイオ液肥事業は、すっかり市民の暮らしに溶け込んでいます。
ただ暮らしているだけなのに、特に意識していないのに、持続可能な取り組みに貢献できているって、ちょっとステキ。
もし興味を持ったら、ぜひバイオマスツアーや真庭あぐりガーデンで、真庭の循環の仕組みを体感してくださいね。
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