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木から発電する”木質バイオマス発電”とは?真庭市の取り組みを紹介

岡山県真庭市は、木を燃料とする「木質バイオマス発電」に取り組んでいます。

真庭市の代表的な取り組みとして、さまざまな場面で紹介されています。

この記事では、木質バイオマス発電について、以下の内容を紹介します。

  • 木質バイオマス発電の概要
  • 真庭市で木質バイオマス発電が始まった理由
  • 真庭市の木質バイオマス発電の特徴

木質バイオマス発電は見学ツアーも実施され、全国から視察が相次ぐほどです。

環境やエネルギー、循環型社会に関心のある方にとって興味深い内容なので、ぜひご一読ください。

このブログを書いている人

  • 岡山県真庭市の移住コンシェルジュ
  • 大学時代は環境学を専攻
  • バイオマス発電所見学ツアーに参加したことがある

木質バイオマス発電とは

木質バイオマス発電とは木質バイオマス発電とは、木を燃料とした発電のことです。

燃料として使われるのは建築材ではなく、森林作業で発生する未利用木材や、製材所から出る端材がメインです。

2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されてから、国産バイオマス燃料の導入や、未利用木材の活用が推進されてきました。

2012年には再生可能エネルギーで発電される電力の価格を国が約束する「固定価格買取制度(FIT制度)」もスタート。

木質バイオマス発電もFIT制度の対象となりました。

さらに、安定的に稼働できる再生可能エネルギーとしても注目され、バイオマス発電所の新設が各地で行われました。

電源構成と最終電力消費現在では、日本で発電される電力のうち、2.9%がバイオマス発電によるものです。

再生可能エネルギーでは14.6%と、太陽光・水力に次ぐ発電規模を誇ります。

さらに、2010年から2020年の10年間で発電量は2倍に増加。
再生可能エネルギーの増加に貢献しています。

岡山県真庭市でも、2015年4月から木質バイオマス発電所が稼働しています。

出典:令和3年度エネルギー需給実績(資源エネルギー庁)

木質バイオマス発電のメリット

木質バイオマス発電のメリット木質バイオマス発電のメリットは以下の3つです。

  • 二酸化炭素排出量を削減できる
  • 林業や地域の活性化につながる
  • 天候の影響を受けない

それぞれについて、詳しく解説します。

二酸化炭素排出量を削減できる

木質バイオマス発電の最大のメリットは、二酸化炭素排出量を削減できることです。

「木を燃やしているから、二酸化炭素は排出されるのでは?」と思うかもしれません。

しかし、木は成長する段階で多くの二酸化炭素を吸収しています。

そのため、「成長段階で吸収した二酸化炭素=燃焼によって発生した二酸化炭素」と考えることができ、±ゼロとなるのです。

よって、木質バイオマス発電は地球にやさしい発電といわれています。
カーボンニュートラルの実現に欠かせない発電ともいえます。

林業や地域の活性化につながる

2つめのメリットは、林業や地域の活性化につながることです。

特に近年は、国産材の消費が低迷し、林業の衰退や山林の荒廃が問題になっています。

木質バイオマス発電によって地域の木材需要が高まれば、林業の活性化や山林の再生につながることが期待できます

また、発電や林業に関する雇用が生まれるなど、地域活性化にも貢献します。

天候の影響を受けない

3つめのメリットは、天候の影響を受けないことです。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候によって発電効率が左右されます。

しかし、木質バイオマス発電は、燃料である木さえあれば安定的に発電することができます

これは他の再生可能エネルギーにはない強みです。

木質バイオマス発電のデメリット

木質バイオマス発電のデメリット一方で、木質バイオマス発電のデメリットは以下の2点です。

  • コストがかかる
  • 発電効率が悪い

それぞれについて、詳しく解説します。

コストがかかる

木質バイオマス発電には、以下のコストがかかります。

  • 発電所建設にかかるコスト
  • 燃料の運搬にかかるコスト
  • 木材チップ生成にかかるコスト

木質バイオマスでは、木材を効率よく燃焼させるために、木を乾燥させてチップにします。

そのため、チップ化に多くのコストがかかります。

また、燃料となる木は山から運び出し、チップに加工後、発電所まで輸送する必要があります

そのため、地域に林業が根付いていないと実現が難しいのが現状です。

発電効率が悪い

木質バイオマス発電のエネルギー変換効率は、良くても30%程度です。

これは石炭火力発電所の40%に比べて低い数値です。

理由は、木材があまり高い温度で燃えないからです。

少しでも効率を上げようと思ったら、大型の施設を造る必要があります。

しかし、大型の施設であればあるほど、木の運搬・加工などが難しくなります。

参考
木質バイオマスエネルギー編(農林水産省)
水力発電の概要 役割・特徴(関西電力)

真庭市で木質バイオマス発電が始まった理由

真庭市で木質バイオマス発電が始まった理由ここからは、真庭市の木質バイオマス発電について解説していきます。

まずは真庭市で木質バイオマス発電が始まった理由について、

  • 森林が豊富
  • 林業が盛ん
  • 民間事業者たちの活動

の3点を解説します。

森林が豊富

真庭市は岡山県で最も面積が広い自治体で、その面積は岡山県全体の12%を占めています。

そのうち森林面積は80%と、豊富な森林資源を有しています。

林業が盛ん

真庭市は古くから林業が盛んな地域で、ヒノキの産地として有名です。
現在も真庭市内には、多くの林業会社があります。

真庭市の林業の大きな特徴は、木の育成から製材までを市内で完結できることです。

林業には、以下のようなさまざまな業種が存在します。

  • 素材生産:木を育て、伐採して搬出する
  • 原木市場:搬出された木を売り買いする
  • 製材所:木を使える形に整える
  • 製品市場:製材された木材製品を売り買いする

真庭市には、これら全てが揃っています。

つまり、木質バイオマス発電に必要な未利用木材が継続的に発生し、それらを運ぶ仕組みが古くから根付いていたのです。

実際、2000年の時点で、真庭市内では年間約78,000tの端材が発生していました。

これを有効活用できるよう、林業・木材産業を中心とした連携体制を構築。
木質資源の循環系を築き、燃料の安定供給を実現しました。

民間事業者たちの活動

木質バイオマス発電は、民間事業者たちの活動もきっかけの1つでした。

1993年に、地元の若手経営者を中心とした「21世紀の真庭塾」という組織が設立。

さまざまな分野の専門家と意見交換を重ね、現在の木質バイオマス発電の礎を築きました

真庭の木質バイオマス発電関連施設

真庭市の木質バイオマス発電では、以下の2つの施設があります。

  • 真庭バイオマス集積基地
  • バイオマス発電所

それぞれについて詳しく紹介します。

真庭バイオマス集積基地

真庭バイオマス集積基地真庭バイオマス集積基地は、真庭市内と周辺地域から未利用木材を集め、加工・破砕する施設です。

木質バイオマス燃料の安定供給に向けた拠点としての役割を担っています。

木質バイオマス発電の燃料となるチップは、ここに集められた木から作られています。

現在では、バイオマス燃料として発電所にチップを供給している他に、一般の方への販売も行っています

歩道に敷くためのチップや、畜産関係への粉砕バークなどを購入できますよ。

ちなみに、以前は未利用木材や端材は、廃棄物としてお金を出して処理されていました。

しかし、真庭バイオマス集積基地ができて以降、資源として活用できるようになりました。

バイオマス発電所

バイオマス発電所バイオマス発電所は、木を燃やして発電する、木質バイオマス発電の基幹的な施設です。

真庭市が目指す循環型社会の中心的役割を担っています

「木をあますことなく使う」というコンセプトのもと、2015年4月に運転が始まりました。

現在は真庭市郊外の産業団地で、24時間体制で稼働しています。

真庭バイオマス集積基地の近くに建っているため、チップの輸送コストを抑えられるのがポイント

発電した電力は、地元の新電力事業者「真庭バイオエネルギー」に売電し、市役所などの公共施設に供給しています。

費用としては、初期事業費として41億円、年間の燃料購入費が13億円、さらに人件費がかかっています。

これだけの費用をかけても発電所が安定して稼働を続けることで、FIT制度の適用を受けられる20年以内に、初期投資を回収できる見通しです。

真庭の木質バイオマス発電の仕組み

真庭の木質バイオマス発電の仕組み真庭市の木質バイオマス発電は、以下の仕組みで動いています。

まず、製材所や原木市場といった業者や山林を所有する市民から、燃料となる木が真庭バイオマス集積基地に運び込まれます。

運び込まれるのは、以下のような木質副産物と呼ばれるものです。

  • 未利用木材
  • 端材
  • 樹皮

※枝葉が付いていてもOK

運び込まれた木は、用途に合わせて選別・加工・販売されます。

加工された木のうち、チップや枝葉はバイオマス発電所に運ばれ、発電に使われます

また、木質バイオマス発電用のチップ以外にも、製紙や猫砂、畜産敷料などの原料にも加工され、販売されています。

真庭の木質バイオマス発電の現状

真庭の木質バイオマス発電の現状真庭市のバイオマス発電所の1年間の発電量は7920万kWhです。

これは一般的な家庭の電力使用量(年間3,600kWh)に換算すると、約22,000世帯分です。

2022年7月現在、真庭市の世帯数は17,634世帯。

つまり、木質バイオマス発電だけで、真庭市内の全世帯を賄えるだけの電力を発電しているといえます。

実際は店舗や施設があるので、電力自給率100%とはなりませんが・・・。

それでも、真庭市のエネルギー自給率を大きく押し上げています

発電所稼働前の2012年には11.6%だった真庭市のエネルギー自給率は、2020年には32.4%まで上昇しました。

また、経済面では約24億円が地域内に留まり、地域の経済循環を生んでいます。

出典:真庭市の人口・世帯数(令和4年7月1日現在)

真庭の木質バイオマス発電の特徴

真庭の木質バイオマス発電の特徴真庭市の木質バイオマス発電の特徴は以下のとおりです。

  • 燃料の安定供給を達成している
  • 木材を供給した地域住民に還元がある
  • 樹皮や端材も燃料として利用できる
  • 取り組みを見学できるツアーがある

それぞれについて、詳しく解説します。

燃料の安定供給を達成している

現在、日本国内では100ヶ所以上のバイオマス発電所が稼働しています。

しかし、燃料不足によって出力を落としていたり、輸入チップ・ペレットを用いている施設も多くあります。

一方で、真庭市のバイオマス発電所は地域からの供給の仕組みを整えたことで、燃料の安定的な確保を達成しています

さらに、以下の効果も生み出しています。

  • 林業の活性化
  • 雇用増加
  • 山林所有者による山の整備

木材を供給した地域住民に還元がある

真庭バイオマス集積基地には、林業関係の業者だけでなく、一般市民も木を持ち込むことができ、有料で買い取ってもらえます

そのため、最近では庭木を剪定した際の枝葉の持ち込みが増えています。

近年では「山を所有していても役に立たない」といわれますが、真庭市の場合、使い方次第では山で収益を出すことができるかもしれません。

樹皮や枝葉も燃料として利用できる

真庭市のバイオマス発電所のボイラーは、樹皮や枝葉も燃やすことができます

実際に、燃料の30%程度は樹皮や枝葉です。

これは、真庭市のバイオマス発電所が燃料の安定的な確保を達成している要因の1つでもあります。

ちなみに、バイオマス発電所稼働前は、樹皮や枝葉は一部が堆肥として利用されるだけで、あとは捨てられていました。

発電所が燃料として使うことで、コンセプト通り「木をあますことなく使う」を達成したのです。

取り組みを見学できるツアーがある

真庭市では、木質バイオマス発電の取り組みを見学できるツアーがあります。

見学できる施設は以下のとおりです。

  • 原木市場
  • 真庭バイオマス集積基地
  • バイオマス発電所
  • 銘建工業本社事務所(CLT建築物)
  • 真庭市役所本庁舎

さらに、2日目専用オプションとして、バイオマス発電の源である真庭の森を見学することもできます。

また、昼食では、真庭のグルメも堪能できます。

基本的に団体での受け入れですが、個人や少人数での参加が可能な「小グループの日」も、定期的に実施されています

私も参加しましたが、真庭の代表的な取り組みを生で見ることができる、良い機会でした。

特に発電所は普段の生活では入れない施設なので、とても貴重な経験でした。

リンク:真庭SDGs・バイオマスツアー

木質バイオマス発電による地域の変化

木質バイオマス発電による地域の変化ここで、チップを供給する業者から見た、発電所設立前後の変化を紹介します。

森林伐採業者

発電所設立以前は、伐採時に出る未利用木材は、ほとんど山に放置していました

それでは下草が生えにくくなって土壌の脆弱化につながり、災害の原因になりかねません。

しかし、発電所設立後は未利用木材が買い取ってもらえるようになったので、山から持ち出すようになりました。

その結果、山が綺麗になり、再造林がしやすくなったようです。

原木市場

原木市場では、以前は構内に樹皮がたまり、作業の邪魔になっていました

一部の樹皮は堆肥業者に出荷していましたが、季節ごとに出荷量が変動するため、完全には処理しきれなかったようです。

しかし、設立後は発電所に持っていけるようになったので、堆肥業者への出荷と合わせて、樹皮を完全に処理できるようになりました。

その結果、構内が綺麗になり、作業がしやすくなりました

製材業者

製材業者は、以前は製材過程で出る端材の処分に困っていました

しかし、発電所設立以降は、処分方法を考える必要がなくなったうえに、端材の買取によって収益増加につながりました

今後の課題

今後の課題

最後に、真庭市のバイオマス発電の今後の課題として

  • FIT終了後の稼働
  • 広葉樹の活用

の2点を解説します。

FIT終了後の稼働

真庭市のバイオマス発電所は、発電した電力すべてをFIT制度で売電しています

FIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。

真庭市のバイオマス発電所の契約期間は20年です。
つまり、2035年にはFIT制度の適用がなくなります。

FIT終了後にも稼働を続けられなければ、地域産業や自然環境に悪影響が生じる可能性があります

そのため、以下のことが必要とされています。

  • 発電所の運営コストの低下
  • チップの安価で効率的な供給
  • 林業の効率化と生産性の向上

広葉樹の活用

もう1つの課題は、広葉樹の活用です。

真庭市のバイオマス発電所が主に使用しているのは、針葉樹であるヒノキです。

一方で、広葉樹は針葉樹より水分率が低く密度が高いため、発電効率の良い燃料となる可能性があります。

しかし、広葉樹は伐採にコストがかかります

そのため、真庭市は林業関係者と協力して、より効率的に広葉樹を伐採する手法や体制の構築に取り組んでいます

まとめ:木質バイオマス発電は真庭の代表的な取り組み

岡山県真庭市の木質バイオマス発電について紹介しました。

木質バイオマス発電は、林業が地域に根付く真庭だからこそできた取り組みです。

電力が自給できていることは、災害発生時など、いざというときに心強いのではないでしょうか

もっと知りたいという方は、ぜひ真庭SDGs・バイオマスツアーに参加して、その歴史や仕組みを詳しく学んでみてくださいね。

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藤本一志
岡山県真庭市の移住コンシェルジュ。岡山市から真庭市に移住し、自分と同じく真庭に移住する人をサポートしている。ブログでは、移住サポート業務の中で得た移住に関するノウハウや真庭市の魅力を発信中。また、複業家でもあり、Webライター・米農家・環境学習指導者としても活動中。趣味はランニング・カメラ・鉄道旅。 詳しいプロフィールはこちら